読書日記その22「家族じまい」桜木紫乃著

ゴールデンウィークに突入。とは言え今年は昨年同様、おうちで過ごしなさいとのお達し。

というわけで、午後のひと時をマッサージチェアに寝そべって好きな本を読む。こんな過ごし方も悪くない。

 

大好きな桜木紫乃さん。以前取り上げた「ふたりぐらし」では、時間をかけて夫婦になっていく、家族の誕生の物語だったが、今度は家族の終末期の物語。その中心には、釧路で床屋を営んで紆余曲折ありながらも娘ふたりを巣立たせ、またふたりに戻った猛夫とサトミの老夫婦。サトミのボケが始まり家族としての役割を終えようとしている。一話ごとに異なる彼らを取り巻く主人公が語る思い、気持ち、そのさりげない文章でその家族の輪郭が浮かび上がる。そこに少しだけ出てきた脇役が、他の一話では主人公となり、別の家族の物語が・・・桜木紫乃作品のお約束、北海道の各地が舞台で、彼女ならではのエロチックな箇所も少しだけ健在。そして、全篇に共通しているのは、少し覚めた、でも優しい作者の目だ。

 

第1話、江別に暮らす智代は猛夫とサトミ夫婦の長女。夫啓介と老いた親を訪ねた後の車の中、啓介の円形脱毛症に話が及んだところで

 

「俺ね、毛の抜けたところから、いろんなものが抜けてっちゃった気がするんだ」

「いろんなものって?」

「やる気とか元気とかやりがいとか、今まで毎日頼りにしてきた、形にならない色んなもの」

 防風林のあいだから差してくる日の光が眩しくて目を瞑る。智代は夫のつぶやきにどう反応すればいいのかわからず、対向車を五台やりすごした。

 次第に、啓介が急に老い支度を始めた理由が防風林のあいだから透けて見えてきた。ふたりになって、いつかひとりになるまでの、いま自分たちは長い道の上にいるのだ。

 

この中で、智代の姑との関係がさらりと触れられる。ほとんど没交渉の啓介の実家だが、56才の弟が28才の嫁をもらったらしい。

第2話はその涼介と結婚することになる陽紅の物語。

第3話、函館で暮らす乃理は智代の妹。まだ子育て真っ最中。弱った両親を見て同居を提案するのだが・・・

第4話紀和は売れないサックス奏者。名古屋から苫小牧へのフェリーで演奏している。どう考えてもこの家族とは関係なさそうだが・・・・・

第5話、阿寒温泉に暮らす登美子も家族と縁の薄い82才。長年の仲居として働いてきたが未だに膝も痛まず元気だが、上の娘萌子から絶縁を言い渡される。その帰り道にふと思い立って妹サトミを訪ねてみる。

 

一週間に一度でもねえさんが来てくれれば、ずいぶん気も楽になると言われれば悪い気はしないが、お互いそれが根本的な解決にならないことはよく分かっているのだった。ほんとうは年寄りを見守る年寄りを、更に見守る何かが必要なのだ。

 そうは言ってもさ―

 昼間、思わぬ「姥捨て」に遭った自分の言うことなど、なんお説得力もないだろうと考えると、なにやら可笑しくなってくる。

 

たくさんの経験をしてきたからこその大人の諦めと慈しみ。

こんな、文章にずっと浸っていたい!!

そう思わせる至福の短編集である。