今朝読み終えて、まだ胸の鼓動がおさまらない。
ラストは戦も終わって、主人公の匡介が花嫁を迎えるという穏やかな閉じ方だったのに、それまでの戦場での矛と楯の対決の激しさに圧倒されたままだ。
石垣づくりの職人集団「穴太衆」。その中でも飛田屋は抜きんでた技と結束を誇っている。匡介は幼いころ、一乗谷の落城で家族を失い、飛田屋の頭源斉に助けられた。
匡介は「石の声が聞こえる」という天賦の才能と努力で、源斉の後継者へと育っていく。
ここで登場する飛田屋の面々。山方の段蔵、荷方の玲次、それに積方の匡介、それぞれが自分の仕事に持つ職人としての責任と誇りがとにかくかっこいい。特に源斉の親類に当たり、本来なら自分が後継者であるはずのところを匡介に取られた形になった玲次の潔さがいい。
一方、鉄砲職人集団の国友衆の頭三落の後継者彦九郎は独自の技術で匡介のライバルとなる。
この小説には嫌な人物は一人も出てこない。
蛍大名とあだ名される戦下手の京極高次、その妻初。穴太衆を守り通す豪胆な武将の横山久内。高次は心から大津の民のことを思って決断をしていく。それが、武士としての沽券にかかわるなどという考えは露ほどもない。だから、部下も民衆も、そして飛田屋の職人たちも、高次のことが大好きになっていく。
戦国末期、東軍についた京極高次は大津城に立てこもる。
一方、毛利元康を大将とする西軍には西国無双といわれた立花宗茂がおり、そこに国友衆の彦九郎が加わって「最強の楯」対「至高の矛」の対決となっていく。
全ての支度が整ったとき、月は中天を越えていた。おそらく子の刻あたりになる。匡介は全ての職人を集めた。若い職人たちが掲げる松明の灯りで、闇の中に精悍な顔がずらりと並ぶ。
「俺が迷ったせいで、辛い仕事をさせてしまった。すまなかった」
匡介はまず詫びて頭を下げた。命じられれば従う。皆それが当然だと思っているが、唇を嚙みしめる者もおり、やはり苦しかったことが窺える。
「だがもう迷いは晴れた。至極明白なこと。城を、宰相様を、民を守り切る。そしてこれが乱世において、恐らく最後の仕事になるだろう」
匡介が言うと、銘々が頷いた。玲次は皆を見渡した後、一歩進み出て己に向けて言った。
「改めて命じてくれ」
「ああ・・・・・」
匡介は息を思いきり吸い込むと、静かに、それでいて凛然と言った。
「懸かりだ」
「応!」
ここから、死力を尽くした戦いが始まるわけだが、その結末は・・・
敵ながら立花宗茂のクールさが際立っている。
そして、これだけの攻防にもかかわらず、高次が望んだように、死傷者は驚くほど少ない。
思いきりドキドキさせられたが、さわやさが残る、今村翔吾は私の大好きな作家のひとりとなった。