読書日記その39 「成瀬は天下を取りにいく」宮島美奈著

いやはや、とんでもなく突き抜けた主人公の登場だ。
これを読む前に佐川光晴の「あけくれの少女」で

どこでどうやっていきていくのかうちは自分で決めたい。

そう誓った真記の20年を、親戚のおばさんのような気持ちで応援しつつ読んだ。

そして、今回の主人公成瀬あかり。言動が突き抜けてる。例えば「200才まで生きる」と決めて人生設計を行っている。そのためには念入りな歯磨きは欠かさない。告白されても、

「さっきからずっと考えていたんだが、わたしは西浦の気持ちには応えられない。今は自分のことに忙しくて、恋愛は人生の後半に回そうと思っているんだ」

 俺は思わず噴き出した。それでいくとあと八十年以上待たなくてはならない。

また、突如漫才を始める。それもM1グランプリにエントリーすると言い出したり、月に1cm髪が伸びるのは本当かを確かめるために高校入学と同時に頭を剃ってきたり・・・

これで精神的に弱かったら、発達障害云々の病名がつくんだろうが、そこは我らが成瀬あかり、ものともしない。私もすっかり成瀬ファンになってしまった。

6つの短編からなるこの作品、それぞれが異なる人物で語られる。「ありがとう西武大津店」は中2の成瀬のコロナ禍での夏休みを同じマンションに住む幼馴染の島崎みゆきによって。そして次の「膳所から来ました」では、とうとう漫才を組むことになり、M1グランプリに・・・成瀬の突き抜けた言動と、それに振り回されながらもしっかり食らいついている島崎、これがなんとも愉快、痛快。

「階段は走らない」はほどんど成瀬は出てこない。成瀬たちが生まれる前のこの地域で育った腕白少年たち。その中のひとり、敬太を通して語られる。西武大津店も格好の遊び場で、その中心にいたタクロー。しかし小さな喧嘩をしたまま別れてしまって、3学期が始まったときには急に転校していた。そのことが、マサルと敬太にはずっと引っかかっている。

次の「線がつながる」では高校生になった成瀬。同じ膳所高校への進学し、同じクラスになった大貫かえでの目線での高校生活。やはり扱いにくい存在である成瀬だが、幼稚な仲間外れにしていた小学生の頃と異なり、自分なりの高校生活を探す中で、成瀬ともほどよいつながりを感じるのだった。

最後の「ときめき江州音頭」で初めて成瀬が語る。ここまで無敵と思っていた成瀬が、島崎が東京へ引っ越すことを聞いた途端、大きく動揺し、調子はくるって試験勉強をしても頭が回らない。そして・・・

今後の成瀬を見届けたいと、昨日「成瀬は信じた道をいく」を買ってきてしまった。

とにかく、元気のでるお薦めの1冊。