読書日記その45「茜唄」今村翔吾著

今私が最も目が離せないと感じている作家今村翔吾さん。

最近は裏千家の月刊誌「淡交」でも戦国武将所縁の茶道具を実際に手に取ってみて彼ならではの見方、感じ方をつづる「戦国武将との一会」という連載もされていて、毎月楽しみにしている。

さて、今回の茜唄は彼なりの平家物語である。私自身は以前瀬戸内寂聴さんの現代語訳を読み、鎧兜の描写の美しさが強く記憶に残っていて、それが尚一層あわれを感じさせるという印象だった。

作者は不明とされる平家物語、この本では法然上人に紹介された西仏という僧にこの物語を伝えていくという設定だが、いったい誰が伝えているのか、男なのか女なのかさえも終盤までわからない。そして物語自体は源平合戦で総指揮をとった平清盛の四男知盛の目で進んでいく。

平安時代の話ながら、読み進むうちに知盛そして彼ををとりまく人々が生身の人間として生き生きと動き出す。知盛を兄者と慕う無類の荒武者教経、なんとも好ましいふたりの関係。そして妻希子、そして子供たち。

鵺のような後白河法皇から道具として使われる武士の身分を何とかしたいと考えた清盛。それを理解する知盛は目の前の戦、その背景、そしてその結果まで見据えて策をめぐらせる。その中で源義経とは互いに将才を認め合うよきライバル。彼との無言のやり取りも見逃せない。

私たちは公家から独立した武士の地位を勝ち取ったのが、幼い時、清盛に助けられた頼朝だったことを知っている。平家は滅んだが清盛はこれを良しとするのだろうか。

歌舞伎でも度々登場する平知盛。特に「義経千本桜 渡海屋・大物浦」で大碇を背負って海へ身を投げる姿はただただ悲しく美しく、そしてダイナミックで・・・今までも大好きな演目だったが、これからはより深い楽しみ方ができそうだ。