又々今村翔吾の最新作を取り上げる。
主人公は南北朝時代の楠木正成の嫡男正行(まさつら)ここでは多聞丸(たもんまる)。物語は稀代の英傑と神格化された父が湊川の戦いで死んで数年たったところから始まる。
若くして楠木氏の頭領になった多聞丸。南北朝対立の構造は変わらないものの、後醍醐天皇から後村上天皇になりしばしの小康を保っている。英傑の嫡男という重圧もありながらも、学び、働き、そしてよき仲間たちと青春を謳歌している。
今も伝わる「桜川の別れ」で父正成から託された言葉、それは・・・・
多門丸を取り巻く個性的な、そして魅力的なたくさんの人たち。同年代の弟の次郎、仲間の新兵衛、新発意、石掬丸、けんか相手の青屋灰左。特に兄者と多門丸を慕うめっぽう強いが単細胞の新発意は前回取り上げた茜歌の教盛を彷彿とさせる愛らしさ。大人の目で多門丸を見守る大塚、和田。朝廷側の坊門親忠、弁内侍、そして後村上天皇。
青春群像から心理劇、そして軍記物語へ、手に汗握る展開はこの作者の真骨頂。そして、とにかく多門丸がカッコイイ。
これを読むまで私の中では南北朝時代は日本史の中ですっかり抜け落ちた部分だった。楠木正成や新田義貞の名前は知っていても、それだけ。イメージとしては「戦前の軍国主義が作り上げたヒーローが楠木正成」という誤ったもの。そのせいで、まったく興味を持たずに今まで来てしまっていた。それに引き換え昭和一桁生まれの母は、唱歌「大楠公の歌」を今でも歌える。
この小説を読んだ今、私はこの魅力的な人々が多く登場したこの時代を、是非とも大河で取り上げて欲しいと強く思う。