今回の芥川賞は福岡在住の西南学院大学の研究者である鈴木結生さんの作品ということで、期待をもって読んでみた。
ゲーテ研究の第一人者である主人公統一とその家族、そして彼らを取り巻く研究者たち。ここに登場する者たちは(統一の妻を除いて)皆、少なくともゲーテの「ファウスト」は読んでる文学畑の人々で、理系の端っこにいる私にはその頭の中を覗き見る思いでとても新鮮である。
家族で出かけたレストラン。その紅茶のティーバッグのタグに印刷された『Love dose not confuse everything but mixes. Goethe』これが、統一のある部分にひっかかって外れない。
若き日ドイツに留学した時の友人と交わした「ゲーテはすべてを言った」のジョーク。知の巨人ゲーテだからこそ、多くの言葉を残している。ゲーテ研究の第一人者としては、ティーバッグのタグに記されたこの言葉はいったいどこから引用されたのか、突き止めずにはいられない。
そのことを底流として、彼の周りでは様々な出来事が静かに展開していく。
これを読みながら、ドイツ文学に精通してないばかりにこのくだりの面白さが本当には分からないのだろうな、と思う箇所があちこちに。でも、そんな私でも、少しその真髄に触れられたような気もする。
今、私が楽しくて面白くてたまらないと思い取り組んでいる茶道。それも、お茶をやってない方にその面白さを伝えるのは本当に難しい。それと同じことかな、などと思いながら読み終えた。