読書日記その3 桜木紫乃著「ふたりぐらし」

私が好きな作家のひとり桜木紫乃さんの最新作「ふたりぐらし」

 

この人の小説はいつも北海道を舞台に、人からみるとちょっと挫折して負い目のある主人公が登場する。

今回も江別市と札幌が舞台で、元映写技師の信好と看護師の紗弓のふたりが、ともに暮らす中でだんだん本当の夫婦になっていく様子を、それぞれの立場で書かれた10の短編から成っている。

一編ごとに、ふたりを取り巻く人物が登場し、ふたりの関係を脅かすような出来事が起こる。

信好の母テル、紗弓の母、元ポルノ女優の甲田桃子、紗弓のバイト先の同僚大浦美鈴、老人病棟の患者七重ハマ子、紗弓の父、信好の中学の同級生森佳乃子、信好の雇い主となる岡田とその見合い相手の大村百合、隣家の泉タキ・・・

新たな人物の登場で、心はざわつき、惑いながらも少しずつふたりの関係は深まり、幸せに近づいていく。

特に岡田、大村とのエピソードは考えさせられる。50を過ぎた男女が、異性を求める姿。大村は「本当は時間をかけてお互いが理想のひとに育ってゆくのがいいのだけど、自分にはそこにかける時間がないんだなって気づいちゃった。これまで夢中で働いてきたし、そろそろ自分を通してもいい年だと思ったから、贅沢を承知で『既に出来上がっている男性を紹介してください』って上司に頼んだのよ」と。

認知症の母を持つ彼女、「母を一緒に看取って欲しいのではなくて、母に忘れられてゆくわたしを、誰かに見守ってほしかった」とも・・・・

 

はじめは困った人だと思った信好の母テルや紗弓の母、隣家のタキも、読み進むにつれてやさしい目でみている自分に気づく。

一編ずつゆっくり読んで、小さな幸せを感じたい。そんな本です。