読書日記その10 奥田英朗 「罪の轍」

この作者が直木賞を受賞して以来のファンで、遡って初期の作品からほとんど全部読んでいる。

「オリンピックの身代金」を彷彿とさせるこの作品、夢中で読み上げた。

 

礼文島出身で幼い時、義父からひどい虐待を受けた20才の宇野寛治。山谷で日雇い労働者相手の旅館の娘の町田ミキ子。昌夫を中心とした警視庁の面々。これらの群像劇だが、本当の主役は昭和30年代、オリンピックを控えた日本、とりわけ東京だ。

 

一般家庭に電話がひかれ始めて、それ故に誘拐事件が起こる。吉展ちゃん事件をモデルにしてることは私たち年代の者ならすぐに気づく。身代金受け取りの現場に張り込んだものの、見事に出し抜かれる刑事たち。携帯電話が当たり前の現代では考えられないが、連絡方法がなかったあの時代。

一般家庭にテレビも入ってきた。事件はたちまち全国民が知るところとなり、被害者宅へは報道陣、いたずら電話とそれまでには考えられなかった騒動を巻き起こす。今はそのテレビも生き残りに苦慮し、新たにインターネットでの情報の拡散が・・・

 

それと、区切り区切りで男たちがタバコに手を出すこと。そうそう、あの時代そうだった。

 

事件は私の希望のような解決にはならなかった。

ミキ子は山谷を抜けだしただろうか。

昌夫は出世して、警視庁の縄張り争いの古い体質を改革しただろうか。