読書日記その12「国盗り物語」司馬遼太郎著

今年の大河ドラマ「麒麟が来る」

斎藤道三役の本木雅弘の怪演に引き込まれて、連休前に文庫本全4巻を買い込んだ。

 

前半は斎藤道三の一代記。

 

戦国時代初頭、一人の青年僧が寺を抜け出して京の町で何とか生きていこうとするところから話は始まる。

寺では「智恵第一の法連坊」と呼ばれた松波庄九郎。一方、大きな油商奈良屋の女主人お万阿。この二人の出会いから深い関係に至るまで、その描写は男目線が強すぎて、時として反感を持ってしまう。それでも、最終的には圧倒的な二人の魅力にしてやられた。道三亡き後に、お万阿は光秀や信長と会う場面も出てきて、道三の生きざまをつなげる重要な役どころとなる。

さて、お万阿の亭主となった庄九郎、持ち前の知恵と才覚で奈良屋を乗っ取り、山﨑屋と屋号を替えてその主人となるわけだが、それが何とも言えない爽やかさでなされる。お万阿も店の手代たちをも庄九郎のファンにしてしまっているその手際の鮮やかさ。

しかしながら、庄九郎はもっと大きな野望があった。将軍になる。そのための足掛かりを美濃と定め、国守土岐頼芸に近づいていく。庄九郎は知識、智恵を兼ね備え、詩歌にも造詣が深く、茶を嗜み、槍を持っては右に出るものはおらず、その上、山崎屋の富も持っている、まさにスーパーヒーローとして描かれている。

京と美濃を行き来して、京では油屋の主人としてお万阿を可愛がり、美濃では武士として国盗りに奔走する。

その間、後の「蝮」と言われることとなる凄みを見せながら、とうとう美濃一国の主となる。楽市楽座や天守閣を築いたりは道三のアイデアだと言う。それを足場に天下を狙うが、さすがに人ひとりの一生では短すぎた。

斎藤道山はいわば創業者。ワンマン経営で突き進んだが、彼を支える人材を育てて事業を継承するところまでは手が回らなかったようだ。息子の義龍と対立し倒れることとなる。

自らの天下統一の夢を娘婿の織田信長に託して没した道三。

後半は道三に可愛がられた二人、明智光秀と織田信長の物語。

この時代の武将たちの個性や心情がだんだんわかってくる。

その中でも信長の異常さは際立っていて、エネルギー量の多さ、心の強さ鈍感さ、人を道具としてしか見ない、その目利きぶりと冷徹さ。

信長は光秀の小賢しさを嫌っているが、彼の戦略家、外交力、行政面での有能さを誰より認めている。それで、一介の牢人の光秀を酷使しつくし、その働きにより城持ち大名に引き上げる訳だが、天下統一を前にとうとう光秀の神経が耐えられなくなる。そして本能寺の変へと・・・・・

 

確かに信長は狂気を持った天才で、この変革期にのみ活躍できる人物。それに対して光秀は有能な官吏でまっとうな常識人、いい人、でもやはり魅力には乏しい。

 

全編読み終わって、つくづく斎藤道三の魅力が際立ってきた。彼が人の倍、寿命があれば・・・・そんな想像もしてみたくなった。