読書日記その25 「黒牢城」米澤穂信著

直木賞受賞作のこの本、主人公は荒木村重。

戦国時代の小説を読んでいると、幾度となく出てくるこの人物。

明智光秀より早く、信長に謀反を起こした人物。そして、黒田官兵衛を長く土牢に閉じ込め彼を不具の身に陥れた人物。そんな彼の物語。

そんな村重が主人公になりうるのだろうか・・・・

そんな思いで読み始めた。

時は織田信長と本願寺が対立の最中の天正6年。大阪の北に位置する伊丹郷にある有岡城、それはルイス・フロイスが「甚だ壮大にして見事」と評した大城塞。そこにたくさんの兵糧、武器などが運び込まれている。城主の荒木村重の登場は

あたかも巌のごとく、体の大きな男だ。顔は浅黒く焼け、細く落ちくぼんだ目はどこか眠たげで、人が見れば鈍根とも思うだろう。だがかれはひとたび戦場に立てば火を噴くように烈しく戦い、重い口を開けば諸人を説き伏せ、要に応じて奸計をめぐらせる乱世の武士であった。年は四十半ば。有岡城の主にして、織田家から摂津一職支配を許された一世の雄、荒木摂津守村重である。

この堂々とした登場場面。ここに、村重の謀反を見抜いた朋友の黒田官兵衛が現れる。

官兵衛は村重に対して、毛利の援軍を恃んでのこの行動を思いとどまるよう説得するが、村重は撥ね付け、官兵衛を帰さず、殺すではなく地下の土牢に押し込めてしまう。

こうして官兵衛は、摂津国有岡城に囚われた。

―因果が巡り始める。

それから有岡城では不思議な事件が次々とおこっていく。

籠城が長引くにつれて、御前衆と国衆たちの間に、そして民衆との間に、少しずつ不協和音が大きくなっていく。

それにつれて、あれほど堂々としていた村重にも変化が・・・

4話からなる事件は、一つ一つがミステリー仕立で、官兵衛が土牢の中から推理していくというつくり。

読み切った今、タイトルの示すのは、「官兵衛を閉じ込めた土牢を持つ城」というより、村重が籠城した有岡城自体が、彼にとって「黒い牢」となっていく過程をたどる話に思えてくる。