読書日記その32「江戸の夢びらき」松井今朝子著

久しぶりの松井今朝子の本を手に取った。「仲蔵狂乱」を読んてから早20年。歌舞伎、落語、浮世絵と江戸文化が好きな私としては、まったくもって手落ちだった。

今回は、歌舞伎の創成期、犬公方吉綱の時代。やっと常設の芝居小屋ができ始めたころ。江戸のひとりの天才役者が現れる。

大阪、坂田藤十郎の和事に対して江戸は團十郎の荒事の誕生。團十郎自ら本を書いて「暫く」「鳴神」など、今へ繋がる歌舞伎十八番を世に出しては当代随一の人気を博する。

しかし、舞台の度に超人的な体力、集中力で演じるその芸は、受け継がせることは簡単ではない。

その悩みの最中、舞台上で團十郎は凶刃に倒れる。

初代團十郎亡き後、息子九蔵は早々に團十郎を継がされるが・・・・

偉大な親を持ってしまった子供の大変さ。しかし、彼は自分の芸を見つけ、團十郎の芸を更に幅広いものにしていくのだった。

「外郎売」の成立の過程は二代目が本物の團十郎へと成長する物語となる。

九蔵の母(初代團十郎の妻)恵似の目を通して描かれた、生きた江戸の町と歌舞伎をとりまく人々。

歌舞伎好きにはたまらない話。また、歌舞伎を見に行きたくなった。

十三代目市川團十郎白猿の襲名披露が待ち遠しい。